大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)1087号 判決

本籍

和歌山県新宮市新宮七五七一番地

住居

大阪市住吉区西長居町一三八番地 典南荘アパート内

(当時大阪拘置所在所)

表具師

大矢茂夫

明治三一年一〇月一六日生

右の者に対する横領被告事件について昭和二六年一月二九日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中三〇日を本刑に算入する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人及川龍七郎の上告趣意第一点について。

記録を調べてみると、被告人に対しては昭和二五年七月八日古市簡易裁判所裁判官が勾留状を発しているのであつて、もとよりこの勾留状には何月何日まで勾留するということは記載されていない。右勾留状執行後、検察官は刑訴二〇八条により公訴提起期間の延長を請求し、裁判官は同年七月二二日まで期間を延長し、検察官は同日本件公訴を提起したので前記勾留状は刑訴六〇条二項により公訴の提起があつた日から二箇月効力があり、同年九月二一日失効すべきところ、大阪地方裁判所堺支部裁判官は同月一九日その勾留を継続する必要があるものと認め同年一〇月二一日まで勾留することゝして勾留更新決定をした。そしてその後も、適法に勾留更新が繰り返されているのであるから、被告人の勾留については所論のような違法はない。それゆえ、勾留の違法を前提として違憲論を主張する論旨は、その前提を欠くが故に理由がない。のみならず、勾留手続に違法があつても、これをもつて原判決に対する上告理由とすることができないことは当裁判所大法廷判決の示すところである(昭和二三年(れ)六五号同年七月一四日判決、同年(れ)五八二号同年一一月一四日判決、同年(れ)四四七号同年一二月一日判決)。されば、論旨は理由がない。

同第二点について。

所論憲法上の権利は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所は被告人がこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければいいのであることについては当裁判所大法廷判決の示すとおりである(昭和二四年(れ)二三八号同年一一月三〇日判決)。されば原審が被告人に対し弁護人の選任に関する通知をしなかつたからとて所論憲法の規定に違反しないことは前記大法廷判決の趣旨に徴し明らかであり、すでに当裁判所に同趣旨の判決がある(昭和二五年(あ)二四三一号同二六年五月一五日当裁判所第三小法廷判決)。それゆえ、論旨は理由がない。その他の主張は刑訴四〇五条所定の事由には当らないし、本件については同法四一一条を適用すべきものとも認められない。

よつて、刑訴四〇八条、一八一条、刑法二一条に従い、裁判官全員の一致した意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例